このたび、当社が創出した胃酸分泌抑制剤であるtegoprazanに関する論文(以下「本論文」)がアメリカ化学会雑誌「Journal of Medicinal Chemistry」に掲載されましたので、以下のとおりお知らせいたします。

本論文は、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学(以下「名古屋大学」)細胞生理学研究センターの阿部一啓准教授らを中心とし当社従業員も参画した研究グループが行った共同研究(以下「本共同研究」)の成果に基づくものです。

本論文のポイント:

  • 胃酸分泌を担うタンパク質である胃プロトンポンプに薬剤が結合した構造を、X線結晶構造解析~{※1}やクライオ電子顕微鏡による単粒子解析~{※2}といった『タンパク質の構造を視る』手法によって明らかにした
  • Tegoprazanを含む4つの化合物について構造解析を行った結果、胃プロトンポンプの結合ポケットにおいて薬剤の結合に重要な部位が明らかになり、構造に基づいて新しい胃酸分泌抑制剤をデザインするための道筋が提案された
  • Tegoprazanは、類縁の化合物と同様に胃プロトンポンプがイオンを輸送する経路を塞ぐ形で結合していたが、tegoprazanの構造上の特徴により、静電的な相互作用が期待しにくい強酸性の環境においても胃プロトンポンプへの結合が担保されていることが示唆された

Tegoprazanは、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium Competitive Acid Blocker:P-CAB)と呼ばれる新しい作用機序の胃酸分泌抑制剤です。P-CABは、胃食道逆流症治療の第一選択薬であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)とは異なるメカニズムで、PPIよりも速やかに、かつ持続的に胃酸分泌を抑制するという特長を持つ新世代の治療薬として、現在、当社の提携先企業により韓国および中国において販売されております。

当社は今後も引き続き、アカデミアとの共同研究を含む各種の施策により、tegoprazanの価値最大化に取り組んでまいります。

<ご参考>
本論文および発表内容の詳細につきましては、名古屋大学のプレスリリースもあわせてご参照ください。
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/05/post-263.html

〔今回の発表論文〕
今回発表された論文は以下のとおりです。
Saki Tanaka, Mikio Morita, Tatsuya Yamagishi, Haridya Valia Madapally, Kenichi Hayashida, Himanshu Khandelia, Christoph Gerle, 6Hideki Shigematsu, Atsunori Oshima, Kazuhiro Abe
"Structural Basis for Binding of Potassium-Competitive Acid Blockers to the Gastric Proton Pump"
DOI: 10.1021/acs.jmedchem.2c00338

※1 X線結晶構造解析
タンパク質の構造解析法の1つ。X線をタンパク質の三次元結晶に照射して回折像を収集し、そのデータをコンピューター によって解析することで、タンパク質の立体構造を得る。

※2 クライオ電子顕微鏡による単粒子解析(Cryo-EM)
タンパク質を薄い氷の中に閉じ込めて、クライオ電子顕微鏡(クライオ=低温という意味)で画像を撮影する)。画像には、いろいろな方向を向いたタンパク質が映っているが、それ自体はノイズが多い。コンピューター上で同じ方向を向いている粒子を重ね合わせ、数十万粒子の画像から立体構造を構築する。この方法によって高い解像度でタンパク質の立体構造が得られる。この方法の開発に貢献した3名の研究者が、2017年にノーベル化学賞を受賞した。COVID-19のスパイクタンパクをはじめ、様々なタンパク質の構造に基づいた創薬研究にも世界的に広く利用されている。