当社は、この度、名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学(以下「呼吸器内科学」)と、「細胞老化を利用した変異型KRAS肺癌の新規治療薬開発」に関する共同研究契約を締結し、呼吸器内科学 長谷川好規教授、佐藤光夫准教授、および後藤大輝先生との共同研究を開始しましたのでお知らせいたします。

 

当社は、平成26年4月に名古屋大学環境医学研究所に産学協同研究部門「薬効解析部門」(朴熙万特任准教授、以下「薬効解析部門」)を設置し、産学連携を推進することにより、名古屋大学とのシナジーを最大限に発揮できる体制を構築してまいりました。本共同研究はその一環として位置づけられ、呼吸器内科学と、当社が名古屋大学内に保有する薬効解析部門との間で実施し、変異型KRASを有する肺癌に対する治療薬の開発を目的とした特定タンパク質に対する選択的阻害剤の探索を実施いたします。

 

癌は先進国成人の最大の死因であり、なかでも肺癌は本邦における死亡原因の第一位となっています。KRAS遺伝子は細胞の増殖に関与し、変異による機能活性化が癌化を引き起こす発癌遺伝子の一つであり、腺癌では20%にKRAS遺伝子の変異が報告されています。KRAS遺伝子変異を伴う肺癌は悪性度が高く、臨床的に重要な腫瘍であるにもかかわらず、KRASシグナル伝達経路の遮断は困難であり未だ有効な治療薬の創出には至っていません。

正常細胞において癌遺伝子の活性化が引き起こされると、細胞老化のメカニズムが働き細胞増殖を抑えることが知られています。細胞老化は生体内において癌抑制機構として働いていると考えられており、その仕組みの破綻が癌の発生に重要な役割を担っていることが近年の研究で明らかとなってきています。今回の共同研究において、当社と名古屋大学は、特定のタンパク質を標的とすることで変異型KRAS肺癌細胞の細胞老化を誘導し、癌細胞に対して選択的に抗腫瘍効果を発揮する新規治療薬を創出していきます。

 

呼吸器内科学では、長谷川好規教授のご指導のもと、分子生物学的な基礎研究から臨床研究に至るまで、呼吸器領域の研究を精力的・包括的に行っておられます。当社および薬効解析部門は、佐藤光夫准教授ならびに呼吸器内科学の最先端の研究成果と、当社がこれまで培ってきた創薬研究のノウハウを融合し、産学連携の下で創薬研究を加速することにより、画期的な新薬の創出を目指してまいります。

 

【ご参考:用語解説】

KRAS:Rasファミリーに属するGTPアーゼ。KRASは正常細胞において細胞表面の受容体からもたらされる様々な細胞増殖シグナルを核に伝達します。 細胞老化:細胞が分裂を停止し、不可逆的に増殖が停止する状態。テロメアの短小化、DNA損傷などのストレス機構に応じて誘導されます。