このたび、当社連結子会社のテムリック株式会社(以下「テムリック」)が権利を有するレチノイン酸受容体作動薬タミバロテン(AM80)に関する論文(以下「本論文」)が国際医学雑誌「Oncogene」のオンライン版で公開されましたので、お知らせいたします。

本論文は、名古屋大学医学部附属病院消化器内科・飯田忠病院助教、同・水谷泰之病院助教、名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学・川嶋啓揮教授、同腫瘍病理学・榎本篤教授、藤田医科大学国際再生医療センターの高橋雅英センター長、藤田医科大学消化器内科学・廣岡芳樹教授および東京大学消化器内科学・藤城光弘教授らの研究グループ(以下「本研究チーム」)が行った共同研究の成果(以下「本研究成果」)に基づくものです。

本論文のポイント:

  • 膵がん等の難治がんでは、その間質~{※1}にがん関連線維芽細胞(以下「CAF」)~{※2}が増えることがわかっています。CAFにはがん促進性の細胞(がんの味方)とがん抑制性の細胞(がんの敵)の両者が存在する可能性が報告されています。
  • 本研究チームは以前にがん抑制性CAFの特異的機能マーカーとしてMeflin(メフリン)~{※3}分子を同定しておりましたが、今回、タミバロテンがメフリン遺伝子の発現を増強し、がん促進性CAFをがん抑制性CAFに変換させる作用を持つことを見出しました。
  • 膵がんマウスモデルにタミバロテンを投与すると、腫瘍がやわらかくなり、腫瘍血管の拡張と抗がん剤の薬物送達の改善が見られること、これに伴い抗がん剤の治療効果が増強することを見出しました。組み換えセンダイウイルスを用いてメフリン遺伝子をCAFに導入する方法を用いた場合にも同様の効果がみられました。
  • 本研究成果は、薬物によりがん抑制性CAFの数を増加させることが難治がんの新たな治療法になりえることを示しています。

膵がんは消化器がんの中で最も予後が悪いがんであり、予後不良の原因として早期発見の難しさとともに抗がん剤抵抗性があげられます。膵がんの最大の特徴は、CAFが主要な構成要素である間質が腫瘍の約9割を占めることであり、この豊富な間質が原因で抗がん剤の浸透が阻害されることで抗がん剤抵抗性が起こっております。本研究成果により、タミバロテンが膵がんにおける抗がん剤抵抗性を改善する薬剤になりえると期待されます。

本研究成果を受けて、現在、名古屋大学消化器内科学および東京大学消化器内科学において、切除不能膵がんに対するタミバロテンと従来の抗がん剤(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル)の併用効果を検証する第Ⅰ/Ⅱ相医師主導治験(治験責任医師:川嶋啓揮、以下「本医師主導治験」)が進められています(AMED臨床研究・治験推進研究事業における研究開発課題「国産既存薬の新効能による膵がんの間質初期化治療法の開発と第I/II相医師主導治験の実施」、研究開発代表者:藤城光弘; NIH ClinicalTrials.gov)。

当社およびテムリックは、有償での治験薬の提供を行うとともに治験薬の安全性情報の入手と提供等により、本医師主導治験に協力しております。今後も、当社およびテムリックは、本プロジェクトを含む各種の施策により、タミバロテンの価値最大化に取り組んでまいります。

<ご参考>
本論文および発表内容の詳細につきましては、名古屋大学のプレスリリースもあわせてご参照ください。

〔今回の発表論文〕
今回発表された論文は以下のとおりです。
Tadashi Iida et al. "Pharmacologic conversion of cancer-associated fibroblasts from a protumor phenotype to an antitumor phenotype improves the sensitivity of pancreatic cancer to chemotherapeutics"
doi. 10.1038/s41388-022-02288-9

〔用語解説〕
※1 間質:がん細胞を取り囲むがん細胞以外の領域のこと。
※2 がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast:CAF):がん間質を構成する線維芽細胞(間質を構成するコラーゲン等の線維を産生する細胞)であり、がん細胞の悪性化(増殖、浸潤、転移)を促進するさまざまな因子の産生に関わることが報告されています。
※3 Meflin(メフリン):本研究チームが、未分化な間葉系幹細胞(骨、軟骨、脂肪組織などへの多分化能を有する細胞)および線維芽細胞の特異的マーカーとして同定したタンパク質です。